カテゴリ
以前の記事
2009年 06月 2009年 03月 2009年 02月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
2006年 09月 07日
固く丸まった背中は、何かを訴えかけていた。が、結局声をかけなかった。
2005年秋、香港島・中環。フリンジクラブ脇の坂道で、彼は突然現れた。 目の前でタクシーから降りた男が、キャップを目深にかぶり、うつむきかげんで こちらへ向かってくる。地味なトレーニングウエアの上下。「周星馳(チャウ・シンチー)だ」。 同行の友人にひじでつつかれ、やっと気付いた。 1990年代、シンチーが一世を風靡した全盛期の作品を、心底面白いとは思わない。 いや、思えなかった。なぜなら、広東語がよく分からないからだ。 ただ心に残ったのは、 彼の並々ならぬ野心と、鋭い眼光である。「いつか何かやってやる」。ドタバタの演出とは 裏腹の、固く重い決意のようなものがいつも透けて見えた。 「食神」(96)、「喜劇王」(99)、「少林サッカー」(01)、そして「カンフー・ハッスル」(04)。 口のきけないヒロイン、CGで加工されたアクション、お手軽な自身の偶像化。必要以上の 残酷描写、先輩俳優への敬意もない演出。見終えた瞬間、がっくり力が抜けた。 「ありえねー!」なんてコピーには騙されない。彼がやりたかったことは、 結局こんなことだったのか? 誤解を恐れず言えば、彼の創作の原動力はコンプレックスだと思う。体も小さく、 力もなく、男としての魅力にも欠け、華もない自分。一方で、梁朝偉(トニー・レオン)ら、 同世代のライバルはどんどん売れていく。「強くなりたい。大きくなりたい。女にもてたい。 名声を得たい」。それが彼を突き動かしたのではないか。李小龍(ブルース・リー)こそ、 俺のヒーローだ。かたや売れない現実。現場の隅にしゃがむ姿。 そんな光景をどうしても想像してしまう。 シンチーの映画初期作品、李修賢(ダニー・リー)主演の「霹靂先鋒」(88)。 車泥棒の容疑で逮捕され、あげく殺人事件に巻き込まれたシンチーが、ダニー演じる 刑事に食ってかかる。「俺は車を盗んだだけなのに!どうしてこんな目に遭わなきゃ ならないんだ!俺の何が悪いってんだ!」。ダニーはシンチーの首根っこを押さえ、 かみつくように怒鳴りあげる。「人が死んでるんだ!よく考えて物を言え!」 泣きながら拘置所の隅にうずくまるシンチー。 テレビ俳優だった彼を、映画界に引き入れたのはダニー自身だった。 彼は当時すでに、シンチーの「負の原動力」を見抜いていたのではないか。 フリンジクラブ脇の坂道。シンチーは私の目の前すれすれに横切り、すぐ脇の狭い 雑居ビルの入り口でしゃがみこんだ。ようやく人ひとり通れるぐら狭い階段。セメントの段に 片足をかけ、背をこごめ、ゆっくり靴ひもを結び直す。後ろから見る腰回りは驚くほど細い。 臀部は骨が浮き上がり、足首にはアキレス腱がくっきり見える。 「俺は周星馳だ。気付いたか?」 もちろん、気付いているよ。 背中から声がした気がするほど、長く、長くしゃがんでいた。
by yeungji
| 2006-09-07 02:02
| 人
|
ファン申請 |
||