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2006年 07月 28日
俳優自身のために作られたような役に、時々出会う。
張國榮(レスリー・チャン)と、「さらば、わが愛 覇王別姫」(93)の蝶衣。 李連杰(ジェット・リー)と、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」(91)の黄飛鴻。 役者と役柄の幸せな邂逅。演じている気配が消えれば消えるほど、見ているこちらは するすると映画に吸い込まれていく。 杜琪峰(ジョニー・トー)監督の「再見阿郎」(99)は、劉青雲(ラウ・チンワン)による、 劉青雲のための1本、と言っていい。 刑務所を出たばかりのマカオのヤクザ・阿郎。久しぶりのシャバの空気を楽しむように、 街を闊歩する。タクシー代を踏み倒し、転がり込んだ安ホテルで威張り散らし、 子分を集めて夜のクラブで大盤振る舞い。ホテルのおかみ・黄卓玲(ルビー・ウォン)は、 あきれつつも淡々と、部屋を掃除し、食事を用意する。しかし、天敵の刑事にしつこく 嫌がらせをされ、金も底をつき始めると、取り巻きの視線も冷たくなっていく。 そこで阿郎は、前妻に貸した大金を取り戻すため、彼女の勤め先に乗り込むのだが……。 黒いタートルネックのセーター、ぴったりした黒皮のジャケット、細身の黒いパンツで 固めた青雲の立ち姿が素晴らしい。長い足でずんずん歩き、癇癪玉を爆発させ、所構わず 車を(時には人も)蹴り上げ、角材を振り回し、大目玉でにらみ、頭の上から怒鳴りつける。 粗暴なだけの役なら、ほかにいくらでもあるだろう。すごいのは、暴れる青雲の肩から、 背中から、横顔から、彼の隠された気弱さや、繊細さや、優しさがにじみ出ているところだ。 深夜、ホテルの狭い厨房に立ち、インスタント・ラーメンを作る阿郎。カメラがじっと見つめる 後ろ姿から、寂しさが漂い流れる。青雲が阿郎になったか。阿郎が青雲に乗り移ったか。 私は初めて劉青雲という、平たく言えば「個性派俳優」の、凄腕の才覚を思い知った。 受ける黄卓玲も、どんぴしゃりだ。一人息子を抱えた未亡人。日常のやっかいごとを 何とか飲みくだし、ホテルを切り盛りする。化粧気のない顔、痩せた体、地味なブラウス、 ぱさついた髪。阿郎への戸惑い、いらつき、同情、優しさを、言葉に出さず見事に 表現している。刑事役の林雪(ラム・シュー)も、とぼけた味を出しつつ、出すぎずほどよい。 黄味がかった画面に、マカオのノスタルジックな雰囲気。杜監督の手腕により、 このおかしな男の行状は、上質の御伽噺に姿を変えた。 この頃の劉青雲は、あぶらがのり切っていた。「衝鋒隊怒火街頭」(96)、 「十萬火急」(97)、「高度戒備」(同)、「非常突然」(98)、「真心英雄」(同)など、 いくつも佳作に出演しているが、残念なことに日本ではほとんど公開されていない。 中でも「再見阿郎」は出色の出来で、彼の最高傑作だと思う。 「つきせぬ想い」(93)を見た頃は、彼の魅力が分からなかった。 10年後の「忘れえぬ想い」(03)で、中年男の哀愁にハッとさせられた。 「再見阿郎」のラストシーン。煙草に火をつけ語り合う劉青雲と林雪に しみじみ幸せな気分になったのは、私が年をとったせいだろうか。
by yeungji
| 2006-07-28 15:11
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