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2007年 10月 25日
「忍一時風平浪静、退一歩海闊天空(一時の我慢で波は静まり、一歩退けば空がひらける)」
今思えば、赤面するほど力んでいたあのころ。物事は白黒つけなければ気が済まず、思い込み激しく一直線で、はた迷惑で退屈なひとりよがりだった。弱いくせにいきがって、眼鏡を壊されては、しゃがんで歯を食いしばっていた、梁家輝(レオン・カーファイ)のように。 「監獄風雲(プリズン・オン・ファイアー)」(87)の衝撃は、今も忘れがたい。閉ざされた刑務所。丸裸で囚人服を着せられ、サバンナに放り出されたら、どう生き延びればいいか。正論など通じない、強者が力で支配する世界。白でも黒でもない灰色の道を、自尊心を失わずに歩くには? 独房のプラスチックの椅子の裏に、周潤發(チョウ・ユンファ)が書いた言葉──忍一時風平浪静、退一歩海闊天空。それが、林嶺東(リンゴ・ラム)との出会いだった。 「龍虎風雲(友は風の彼方に)」(86)、「学校風雲」(88)、「伴我闖天涯(いつの日かこの愛を)」(89)、 「聖戦風雲」(90)。「俺はこれが撮りたいんだ!」。監督の意気込みが、見る側をぐいぐい圧倒する。ユンファという最良の演じ手が、一連の傑作を後押しした。香港映画の黄金期。映画界の勢いが、彼の勢いそのものだった。 違和感を感じたのは、いつごろだったろう。初期の「愛神一號」(85)、「君子好逑」(84)を見たころか。葉倩文(サリー・イップ)を愚直に愛する鄭浩南(マーク・チェン)。林青霞(ブリジッド・リン)を思い続ける譚詠麟(アラン・タム)。しかし、相手を追い回す様子は、「一途」では済まされない執拗さだった。「侠盗高飛(フルコンタクト)」(92)で、違和感は確信に変わる。ゲイ役の任達華(サイモン・ヤム)の、ユンファへのゆがんだ愛。「彼はどこか狂っている」。同じころ、盟友・ユンファとの不協和音、撮影現場での強引さも聞こえ始めた。見続けることに疲れていた。もうついていけない。心の中で一方的に距離を置いた。 90年代以降、ほとんど彼の作品を見なくなった。返還後は監督作もめっきり減った。劉青雲(ラウ・チンワン)、呉鎮宇(ン・ジャンユー)主演の「高度戒備」(97)、梁家輝、劉青雲の「目露凶光」(99)。一時の勢いは望むべくもなかった。私は、まったく勝手な観客の一人に成り下がった。 今回の香港映画祭。徐克(ツイ・ハーク)、杜琪峰(ジョニー・トー)とともに、「鐵三角」(07)を携え来日すると聞いた。いてもたってもいられず、赤じゅうたん前に陣取った。報道陣とファンが見守る中、大仰なリムジンが横付けされる。髪は白くなったが眼光鋭いツイ・ハーク、余裕たっぷりのジョニー・トーに続き、リンゴ・ラムがゆっくり降りてきた。若いころと変わらぬ骨ばった体。七三に整えられた薄い髪、変哲のない背広、浅黒い肌、そして何か言いたげな目元。年相応に刻まれた皺が、インテリヤクザの雰囲気を醸し出していた。二人に続き、しんがりで会場に入った彼は、入り口で振り返り、カメラの放列と詰め掛けた人々を少しまぶしそうな目で眺めた。 オープニングセレモニーでは、必要以上にはしゃいでいた。ジョニー・トーが悪乗りしてふざける。ツイ・ハークは、そんな二人を黙って眺めていた。 一夜明けた朝。指定された部屋に入ると、ツイ・ハークとリンゴ・ラムが大声で話している。前夜は遅くまで飲んだらしい。酔いもさめぬ様子で、どっかり椅子に腰を下ろした。リンゴ・ラムは前日の落ち着きはどこへやら、昔の印象通りの、ほんの少しの横暴さと荒っぽさを漂わせ、黒いサングラスの奥からこちらをギロリと凝視する。質問の間も足元に置かれたレコーダーに興味を示し、相手の答えに突っ込みを入れ、何やかんやと忙しい。しかし、「30年の友情」を饒舌に強調する二人に、どこか違和感を感じていた。「最後の質問を」と促され、私は聞いた。 「次に撮りたいテーマは何ですか」 ツイ・ハークは「コメディーだ」と即答した。 「リンゴ・ラム監督は?」 彼は、自分が聞かれるなんて、という顔をして答えを探した。 「俺は、ずっと休暇を取ってるから。仕事してないから」 その瞬間、すべて理解できた気がした。昨夜の大はしゃぎも、ツイ・ハークの沈黙も、赤じゅうたんでのまぶしげな目も。 監督。あなたの中には、まだ暴れん坊の芽が生きているはずだ。映画への愛も熱意も。往年の、なんて言葉は使いたくない。私はいつまでも、何年でも、何十年でも待っている。いつかまた「監獄風雲」のような、驚きをくれることを信じて。
by yeungji
| 2007-10-25 01:58
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